香りの作用

嗅覚とは

特殊感覚の一つです。

 

・ある物質が感覚器に付着することで感じる化学的受容器

 →嗅覚、味覚

・物質が付着したり、触れるわけではないのに感じる受容器

 →視覚、聴覚、平衡感覚

 

嗅覚は有害なガスや腐敗した食物を識別して危険から身を守ったり、ある種の動物のように、異性が出す臭いや獲物の位置を知るといった個体保持・種族保存にも役立つ感覚器です。 

嗅覚の伝導路

①鼻腔の天井にある篩骨の篩板の下面を嗅上皮がおおい、物質をキャッチする嗅毛の付いた嗅細胞があります。

ヒトにはおよそ500万個の嗅細胞があると言われています。

嗅細胞には6~8本の嗅毛が付いています。

 

②におい物質を受け取ると、この嗅細胞は興奮を起こします。

細胞内のたんぱく質が、キャッチしたにおい物質により活性化し、イオンチャネルを開けて、ナトリウム⁺のイオンが細胞内に流入し、神経が脱分極化し、活動電位が発生します。

細胞は何もないと細胞内はマイナス、細胞外はプラスになり、静止電位の状態になりますが、細胞内がプラスに傾いてくると活動電位となります。

 

③無髄のC線維Ⅳ群求心性線維の束が、ふるいのような篩骨篩板に開いた、たくさんの穴から出て、脳底の硬膜とクモ膜を貫き、活動電位で生じた電気信号を脳に伝えます。

 

④嗅細胞は閾値の非常に低い細胞で、ちょっとした刺激でもすぐに興奮しますが、絶対不応期という細胞が興奮できない時期が訪れるのも非常に速いです。

つまり、においを嗅いでも細胞が活動せず、何も感じない時期が訪れるのが速いいのです。

興奮した細胞は、静止電位まで戻らないと新たに興奮できません。

嗅細胞は非常に疲れやすい細胞です。

 

⑤脳底の大脳辺縁系に嗅球があり、そこでグルタミン酸が神経伝達物質となり僧帽細胞とニューロンを変えます。

 

⑥僧帽細胞の軸索は嗅索を経て一次嗅覚野に伝わります。

一次嗅覚野は偏桃体や海馬傍回などにあると考えられています。

 

⑦大脳辺縁系にある一次嗅覚野に接するように、大脳皮質の前頭葉に二次嗅覚野があるとされています。


香りが人の体や心に作用するわけ

大脳の表層は神経細胞の密集した大脳皮質(灰白質)で、覆われています。

 

新しい皮質を新皮質(皮質)といい、

聴覚野、視覚野、運動野、体性感覚野、味覚野、嗅覚野、などがあります。

 

前頭連合野は大脳辺縁系を制御し、実際の行動を支配しているため、損傷すると衝動的な行動を抑制できなくなり、性格が一変してしまうことが報告されています。

※フィニアス・ゲイジの例「もはや彼はゲイジではない」

 

古い皮質を古皮質(辺縁系)と言います。

大脳辺縁系とは、発生学的に古い皮質で、大脳皮質の辺縁部にあります。

機能としては、

1、 快・不快、恐怖、怒りといった感情の発現

2、 感情に伴う身体反応である情動行動

3、 視床下部と協調して、本能行動の調節

4、 自律神経の最高中枢

が、あげられます。

 

本によっては嗅球、嗅索も入っているのですが、

帯状回…感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ。

島…痛みの体験や喜怒哀楽や不快感、恐怖などの基礎的な感情の体験に重要な役割を持つ。

偏桃体…情動と本能行動の中枢

海馬…記憶の形成

が、大脳辺縁系となります。

嗅覚の伝わる先は大脳辺縁系と前頭葉です。

この伝わる経路と嗅覚を認識する脳の部位は、他の感覚器とかなり違っています。

 

脳、神経はまだまだ解明されていないことが多いですが、今現在わかっていることをまとめてみると、におい・香りが、意識・無意識にかかわらず人の心や体に大きく作用することがわかります。

アロマがもたらす効果

人は生活している以上、数々のストレスを避けて通ることはできません。

しかし、そのストレスが大脳辺縁系、視床、視床下部などに悪影響を及ぼし、ホルモンバランスを崩せば、不調は心だけでなく、視床下部からのホルモンによって支配されている、エストロゲンや黄体ホルモン、睡眠に関与するメラトニン、炎症疾患や血糖値に関与してくる副腎皮質ホルモン………などなどの影響で、全身に不調が広がります。

 

そこへ、

アロマの香りを使って嗅覚の伝導路を刺激してあげれば、これらの不調を少しでも改善できるのでは?

もしくは、病気の予防につながるのでは?

と思うのです。

 

アロマオイル、精油の持つ薬理効果よりも、むしろ、

アロマテラピーはこうした働きの方が大きいのではないだろうか…?

と、考えています。

 

そのため、不調に対しての薬理効果ばかりを気にせずに、その人が心地いいと感じる、気に入った香りを重要視しています。

 

 

認知症患者の方の病室でベルガモットの香りを使用したところ、夜中に徘徊したり暴れる、といった行動が減ったという話も聞いたことがあります。

これも、ベルガモットが持つリフレッシュ&リラックス効果が大脳辺縁系、大脳前頭葉に働いたためなのかもしれませんね。

 

一時期、朝にローズマリーとレモン、夜にラベンダーとオレンジの香りが認知症いいと話題にもなりました。

においが大脳皮質へ伝わるルートが、記憶や学習をになう海馬や大脳皮質を刺激するため、脳の認知機能が改善されると言われています。

 

精油も、脳も、はまだまだ未知なことが多いです。

これから研究が進んで、もっと科学的に解明されるのが楽しみです。

 

科学的な解明は研究されている方にお任せするとして…、アロマテラピーをぜひ楽しんでくださいね。

参考文献:

AEAJ認定アロマスクール、アロマテラピーインストラクターコースのテキスト

アロマテラピー検定テキスト1級、2級 公社)日本アロマ環境協会:発行

新訂 目でみるからだのメカニズム 堺 章:著 医学書院:発行

生理学【第2版】 東洋療法学校協会:編 医歯薬出版株式会社:発行

解剖学【第2版】 東洋療法学校協会:編 医歯薬出版株式会社:発行

脳単  河合良訓:監修 原島 広至:文・イラスト NTS:発行

ぜんぶわかる人体解剖図 坂井健雄、橋本尚詞:著 成美堂出版:発行

<香り>はなぜ脳に効くのか アロマテラピーと先端医療 塩田清二:著 NHK出版:発行

 

※使用画像は参考文献からお借りしました。