刺さないはりの作用

「はり」と言ってもいろいろあります

鍼灸治療といえば、肩こり、腰痛、関節痛などの運動器系の症状に対する治療というイメージがほとんどです。

一方で、健康維持増進に寄与すると言われ、古くから東洋医学で言うところの「未病治」の概念に基づく治療が行われてきました。

しかし、いまだ症状の改善、病気の治癒、予防に関する鍼灸の効果については一定の見解を得ていないのが現状です。


鍼灸治療のメカニズムを解明するには、鍼灸治療の形態が細分化されている現在、一般的作用と言った時に何をもって一般的とするかはそれぞれの流派によって異なると思われます。


現代医学的に治療を行うにしても、

・故障した筋肉や神経に対して解剖学的に刺鍼し、電流をかけたり、長い鍼を使って深部の筋を狙う方法。

・表層の筋や皮膚に対してアプローチする方法。

・良導絡


東洋医学的に治療を行うにしても、

・経絡治療

・中医学

・癪聚治療


日本で発展した経絡治療であっても、現代医学的な要素を取り入れている流派もあれば、どっぷり古典派の流派もあります。

鍼(はり)を使って治療することに変わりはないのですが、内容はかなり変わってきます。


小児はりだけを見ても、いろいろあります。

家伝と言われる、その家々で伝わってきた方法もあり、当サロンで行っている大師流小児鍼は家伝で伝わった流派の中ではかなり有名なものです。

家伝はその流派を受け継ぐ人がいなくなった時点で消えてしまうという難点がありましたが、それではもったいない!ということで、谷岡賢徳先生が「大師流小児はりの会」を作って全国にひろめられました。

今では海外の医療関係者の間でも行われるくらいに広がっています。


小児はりは、日本で発展した独特のもので、中国には「小児はり」というものはありません。

小児でも大人と同じように治療をしているようです。


大人に小児はりを使っても、効果が現れる場合があります。

私の場合、基本は経絡治療で治療を行っていきますが、身体を触って、皮膚に緊張感がみられる時は、経絡の流れにそって小児はりを使うことがあります。

皮膚の緊張感がとれ、関節の可動域が広がると同時に、脈やお腹の固さがとれ、普通のはりで本治法がうまくいかなかった時の補助的役割としても使用しています。


羽毛の羽で撫でさするように行う大師流小児はりは子どもだけでなく大人にも気持ちがいいようで、「何今の~!」と、喜ばれるのです。

乾燥した皮膚に使うとうるおいを呼び寄せてくれる効果などもあり、普通に大師流小児はりを治療にとりいれています。

道具はヤキの入った鉄の三陵鍼です。

なぜ鉄のはりでなでるだけで反応がでるのか

・表皮にある神経終末が刺激され、皮膚の下にあるアセチルコリンを刺激し、交感神経の抑制効果を維持させる効果もあると言われています。

交感神経が抑制されると、血管の収縮が緩み血流がよくなり、発痛物質を流してくれます。

また、内臓の働きもよくなります。

緊張が緩むことによって、痛みの緩和にもなります。


・角質層への心地よい刺激はオキシトシン分泌の促進させます。

オキシトシンは幸せホルモンとも呼ばれ、血管の拡張が起き、血圧が降下し、痛みの閾値が上昇し、ストレスホルモンであるコルチコイドを低下させると言われています。


これらは、はりだけでなく「痛い所をさする」ということだけでも期待できます。



・ヤキの入った鉄の三陵鍼を使うメリットとしては・・・


細胞内、身体の中、皮膚表面…人間の体のあらゆるところにイオンは存在し、それが細胞内外を移動することによって、人間はさまざまな生体反応や活動をしています。


鉄イオンによる皮膚接触がカルシウムイオンを分布させ、バリア機能の維持を促進させます。


正常な皮膚は内部にプラスイオン、外部にマイナスイオンを持っており電位差を有しています。

この電位差は皮膚のバリア機能の破壊とともに消失します。

するとカルシウムイオン濃度が変化し、ケラチノサイトからサイトカインを放出してバリア機能を補助しようとします。

そこからどんどん炎症となっていくのです。


湿疹や、アトピーなどで炎症を起した皮膚の角質層はバリアとしての機能を失います。

すると表皮に分布するカルシウムイオン濃度が低くなり、神経線維の密度が高くなります。

濃度低下に伴って末梢神経を刺激するため、皮膚炎の悪循環が起こるのです。


そこに金属をあてることによって、金属の持つ自由電子が皮膚に接触します。

皮膚表面にマイナスの電位を帯びるという環境が整うのです。


炎症の起きた皮膚だけでなく、緊張した皮膚にも金属の持つイオンや、接触することによる圧刺激などが加わり、何かしらの生体反応が起こって緊張がゆるむと思われます。

はりは生体が感じれば反応を示すのです

イオン濃度の変化であったり、触圧刺激が、皮膚の感覚神経を伝わり、脳に刺激が伝えられた時、脳は時として勘違いを起こします。

 

たとえば、盲腸の初期の段階では胃の辺りがシクシク痛んだり、心臓の痛みが左腕の痛みとして感じることがありますが、これは脳の勘違いによるものです。

脳に伝わった電気信号が時に混線して、違うところの痛みであったり感覚と勘違いを起こすのです。

 

情報をキャッチした脳は、それに対して何かしらのアクションを身体に起こさせます。

身体の水分が減っていれば喉が渇いたと感じたり、血糖値が下がれば何か食べたい、危険が迫れば交感神経を興奮させて逃げたり…。

 

受けた刺激に対して、人間はそれに対応しようという力を持っています。

 

感覚器の自由神経終末は表皮にもあります。

そこから何かしらの情報をキャッチして脳に作用し、そこから体へ指令を与えて、身体の不調を治しているのであれば、表面に刺さない鍼をするだけでも身体へさまざまな影響を与えることができるのです。


さまざまな感覚の情報が体の中を流れ、勘違いを起こす部位に到達するルートが、経絡であったり経穴であるのならば、ツボ押しをしたり、経絡の流れにそってなでるだけで、お腹がなったり、胸のつかえがとれるなどの反応が出るのもあながち非科学的なことではないのかもしれません。

 

いかんせん、まだ研究の進んでいない分野なだけに、これからどのような研究がされていくのかは興味のあるところです。

参考文献:

 『鍼灸師のための読んで考える大師流小児鍼』館坂聡:著 医道の日本社

『大師流小児鍼―奥義と実践―』谷岡賢徳:著 六然社

『子供の「脳」は肌にある』山口創:著 光文社

『皮膚は考える』傳田光洋:著 岩波新書

『生理学‐第2版‐』東洋療法学校協会:編 佐藤優子・佐藤昭夫:著

『はりきゅう理論』東洋療法学校協会:編 教科書執筆小委員会:著

『病気がみえる⑦脳・神経』医療情報科学研究所:編