東洋起源の伝統医学を指します。
鍼灸、湯液(漢方薬)、導引(あんまなど)、気功などを総称する意味で用いられます。
その内容は、中国最古の医学書『黄帝内経』が元となっています。
東洋医学は、思想に基づいた統計医学です。
反対に、
西洋医学は、科学的なデータに基づいた客観的医学です。
どちらが、良い、悪いの話を時々見かけますが、どちらが良いか?悪いか?の話は、ナンセンスです。
つまり、どちらも「良い」なのです。
「思想」と「科学」を「医学」というくくりで比較するので、無意味な議論へと進んでいくのです。
医学というものを、
「思想」から見る→東洋医学、伝統医学
「科学」から見る→西洋医学、現代医学
と考えていただければ、と思います。
「しんしんいちにょ」と読みます。
東洋医学は、心も体も一つの小宇宙として考えます。
人体それぞれの臓器、組織、器官はみな異なった機能をもちながらも、同時に全体として一つのつながりを持って、人体という統一性を作り上げています。
そして、心も人体になくてはならない働きをしています。
それを『身心一如』といい、 肉体と精神は一体のもので、分けることができず、一つのものの両面であるということ、という考えが重要となってきます。
西洋医学はポイントを絞った治療が得意と言えます。
目に見えてはっきりわかる症状は、病院で治療を受け、薬を処方してもらった方が、早く治ります。
西洋医学では、血液検査や尿検査、レントゲン撮影など、物理的な方法でその人の状態を視覚化、数値化して病状を判断します。はっきりとした病気の時は、有効な方法です。
なので、私は西洋医学を否定せず、病院へ行って検査された方がよい場合は、病院の受診をお勧めします。
・調子が悪くて病院へ行って検査をしたけど、どこも悪くない。
・もしくは、調子悪くて病院へ行き、薬を出されたけれど、変化がない。
・気になっていた症状は治ったけれど、別の症状が出てきた。
という経験をされたことはありませんか?
そこからが、東洋医学の出番と考えます。
診断は主に望診、聞診、切診、問診で行います。
症状や生活習慣などを伺いながら、その人の全体的に見た体のバランス、顔の表情、色、声、匂い、脈、お腹の固さ、経絡の状態を触れながら、症状の原因、病のある部位を探していきます。
症状のある部位だけではなく、身心全体を総合的に判断し、心身のバランスがその人にとって調度良い状態になるように治療していきます。
東洋医学には、心身一如という考え方があるので、
・よくわからないけど調子が悪い
・目に見えて病気とわかる状態になるのを未然に防ぎたい
・病気を早く回復させたい
という時に有効なのです。
心の状態も大切となるため「治りたい!」「元気になりたい!」と思う力が重要になってきます。
似たような症状でも、人によって治療法は変わっていきます。
その人その人にとって、バランスの取れた状態に戻れるよう手助けをする、オーダーメイドの治療を行うのが東洋医学です。
鍼を単なる刺激療法とは考えていません。気血の調整を司るものです。
体の体表を経絡という気の川が流れて、それは、臓腑という泉に繋がっているとイメージしてください。
その川の流れが、細く枯れそうになっていれば、その先は気が足りていません。
その川の流れが、どこかで堰き止められていたら、ダムのように気が滞ります。
気の川が枯れないように、滞らないように、問題のある所を見つけて、川の流れを正常にする。
それが経絡治療です。
その川の流れの異常を見つけるために、黄帝内経という古典の医学書に書かれている内容を基に診断し、治療ポイントを見つけていきます。
それが、古典による治療と言われる所以です。
黄帝内経という中国の古典を基に、日本で発展した鍼灸治療です。
日本は明治に入ると、政府の政策によって西洋化を推し進めました。
そこで、西洋医学の導入を急いだ政府によって、鍼灸や漢方医学は医療とはみなされなくなったのです。
その後、細胞病理学の理論に基づいた鍼灸治療が生まれ、経穴治療、つまり「この症状にはこのツボ」といった鍼灸治療が主となります。
さらに、痛みのある部位に患者さんに言われるがままに鍼を刺す、ということも多かったそうです。
その後、柳谷素霊先生が「古典に帰れ」といって、古典に基づく経絡治療が始まったのが昭和2年のことです。
それから今日まで、様々な先生たちによって研究され、とことん古典に基づいている流派もあれば、科学的な理論を加えた流派もあり、経絡治療と言っても治療家の個性がうかがえる治療がみられるようになりました。
ただ、基本はあります。
①すべての疾病は、経絡の変動として現れる。
②経絡の変動は、脈を中心に経絡の虚実として把握する。
③証(診断)は陰経の虚を中心とする。
肝虚証、脾虚証、肺虚証、腎虚証。
④治法は、その人の体質を治す本治法と訴える症状を治す標治法に分けられ、同時に治療をしていく。
⑤治療原則は「虚するものはこれを補い、実するものはこれを瀉す」
そして、鍼の本数は少なく、深くは刺しません。
気は非常に軽く、表層を流れるものです。
それの気を調整するのに深く刺しても、意味がないからです。
血は気の推動作用によって流れるので、気を動かしてあげれば滞っていた血も動きます。
臓腑の気の流れがスムーズになれば、臓腑もしっかり機能し、気血を生成することができます。
鍼数を増やせば、かえって効果がなくなります。
あちこち刺激をすればいいというものでもありません。
鍼数が多ければ誤治も減りますが、効果も減ります。
かえってだるくなり、症状が悪化することもあります。
しっかりとその人その人の状態を把握し、的確な鍼の本数と刺激量で、本治法によって的確な治療を行い、体のバランスを整えながら、標治法によって、その人が最も辛いと感じる症状にアプローチをしていくのが、経絡治療です。
施術者の感覚が治療効果に左右するため、技術を身に付けるのは難しいと言われています。
私は、どちらも同じ東洋医学と考えています。
「違う」とおっしゃる先生もいるかと思われます。私はあまり区別しません。
中国には色々な伝統医療があり、それをまとめて体系付けたのが今の中医学。
中華人民共和国(1949年10月1日に建国)の成立以降に整理され、中医学の名で統一理論が確立された医学です。
1949年といえば昭和24年。意外にもにも、日本で経絡治療が始まった後です。
中国の古典を基にしているのは、どちらも一緒です。
日本では、中華人民共和国で整理された医学体系を「中医学」とし、それ以前を「中国医学」として区別する場合もあります。
中医学は「精」「気」「神」の3つの宝を強調し、陰陽説と五行説を核心理論として、五臓六腑、気血、津液の生理・病理を説明し、経絡治療と比べると非常に細かく弁証(診断)します。
脈診、舌診、問診などを通し、患者の病状、病性、病位を把握します。
その上に、患者さんの全体像を証として立て、一番合う有効な治療、つまり、中薬、針灸、推拿(すいな、整体)、気功、薬膳などを行います。
これを弁証論治と言います。
非常に弁証は細かく、突き詰めていくと学者にでもなれそうです。
しかし、臨床家は、診断してサッサと治療を開始していかなければなりません。
しかも鍼は鍼師、薬は薬剤師…と分業されている日本においては、中薬、針灸、推拿(すいな、整体)、気功、薬膳で完成形の中医学ではなく、鍼灸のみで完成させることができる経絡治療が始まったことは頷けます。
鍼の刺し方も、中医学の弁証に基づいて診断し、あまり鍼を刺さないやり方をされている先生もいらっしゃいますが、基本的には鍼を刺して、上下斜めに動かしながら得気(とっき)という重だるい鍼のひびきを感じるように刺します。
一見雑そうに見える鍼の動きも、実は目的によって細かく決まっています。
日本人には日本で発展した経絡治療が体質的に合っていると思っています。
ただ、冬の寒さと乾燥のため、比較的北海道民の肌は本州の人よりも硬いと言われています。
そのため、中医学の治療法が体質的に合っている方は、本州よりも多いかと思われます。
私の体質に中医学の鍼は合わず、鍼の持ち方も、中医学の刺し方で馴れてしまうと、小児はりの持ち方が悪くなる、ということもあり、経絡治療を選んで勉強しています。
勉強会に参加したとき、使っている本に、私はこんなメモを書きこんでいました。
「中医学は複雑なので、研究に迷いこむとどーにもならなくなる。かと言って勉強しなくていいというわけではない。
経絡治療とは、シンプルに考えることによって、効率よく治療する方法である」
中医学は、色々ある中国の伝統医療を国を挙げて体系付けてまとめたものです。
東洋医学の基礎を学ぶには、非常に勉強しやすいです。
個性はないが誰もがそれなりに治療効果を挙げられると言われています。
シンプルな経絡治療は勉強を怠れば、曖昧と言われてしまう治療です。
その曖昧さを、私は柔軟性と考えています。
ただし、柔軟性はきちんとしたベースの上にないと、フワフワとつかみどころのないモノとなってしまいます。
そうならないよう、ベースを築くために中医学の理論は勉強しています。
経絡治療も中医学も勉強していて思うのです。
「根底にあるものは一緒」
と。
経絡治療を否定する人もいらっしゃいます。
・非科学的
・脈だけで何がわかる?
・難経だけ
・経絡治療自体がわからない。
・曖昧
・補法しかしない
…まぁ、色々聞きました。
勉強していくうちに、
・ちょっとづつ科学的なこともわかってきている。
・脈をきちんと見ることで、重大な疾患を見逃さない。
・難経だけではありません。
・経絡治療自体がわからないのは勉強していないから。
・曖昧→柔軟性と置き換えてください。
・瀉法もあります。強くない邪を取り除く方法、強い邪を取り除く方法と手技はわかれます。
と、いろいろと否定的な言葉は、うち消されていきました。
そのため、経絡治療を選び、勉強し、それに基づいて施術を行っています。
参考文献:
私が1番最初に読んだ経絡治療の本です。
『経絡治療のすすめ』首藤傳明:著 医道の日本社
基本的なことは、経絡治療学会の教科書にまとめられています。
『日本鍼灸医学(経絡治療・基礎編)』経絡治療学会:編
いきなり↑これを読むのが厳しい方は、わかりやすくまとめられているこちらがおススメです。
『図解よくわかる経絡治療講義』大上勝行:著 医道の日本
小川が治療の基本に使っている本。
『経絡治療要綱』福島弘道:著 東洋はり医学会
中医学を学びたい方、東洋医学を体系的に学びたい方向け。
『中医学の基礎』平馬直樹、兵頭明、他:著 東洋学術出版